第1節 - 王定六

第6巻 第5章 第1節
月下の脱走と沈黙の決意

この節の概要

牢城での過酷な労働に従事していた王定六は、建康で店を営んでいた父が非業の死を遂げたという報せを受け、復獄を決意する。彼は糞尿を埋める穴を掘る作業の裏で、城壁の下をくぐり抜ける秘密の脱出路を独り必死に掘り進める。一世一代の賭けとして決行された脱走は成功し、彼は夜の闇に乗じて城壁の外へと這い出し、追手を振り切って森へと逃げ込む。空腹と疲労に苛まれながらも、生き延びて父の仇を討つために、街道で旅人を襲って衣類と饅頭を奪い取る。逃走を続けた王定六は、森の奥深くで独り静かに暮らす蛇捕りの老人の小屋に辿り着き、そこで温かい食事と休息を得る。老人の含蓄ある言葉に触れながらも、彼の意志は揺らぐことなく、父が死んだ建康の城郭を目指そうとする。

主要人物

王定六(おうていろく)

  • 綽名:活閃婆(かっせんぱ)
  • 所属:その他(脱獄囚)
  • 役割:脱獄者
  • 初登場:第6巻 第5章 第1節
  • 元は博打に明け暮れる無頼の徒で、乱闘事件を起こして牢城に二年間収容されていた。建康で酒と料理の店を営んでいた父を深く愛しており、その死を知ると復讐のために命がけの脱獄を敢行する。歩行と走行の速さには絶対の自信を持っており、非情な略奪を行ってでも目的を達しようとする執念深い性格である。

登場人物の関係

graph LR
    王定六 ---|父子| 王定六の父
    老人 -->|養育| 王定六
    王定六 -->|友| 老人

地名・拠点

名称種類説明
牢城(ろうじょう)監獄王定六が収容されていた施設で、周囲を高い城壁に囲まれ、囚人は糞尿処理や農耕などの重労働を強いられている。
建康(けんこう)城郭王定六の故郷。父が店を構えていた場所であり、王定六が仇討ちのために目指している目的地である。
森の小屋(もりのこや)住居蛇を捕らえて生計を立てる老人が一人で暮らす簡素な小屋で、王定六が逃走の途中で休息を得た場所である。

用語リスト

用語読み説明
牢城ろうじょう罪人を収容し、強制労働を課すための監獄。
博奕ばくち王定六がかつて浸っていた賭け事。彼は自らの脱獄を「最後の博奕」になぞらえて決行した。
蛇捕りへびとり野生の蛇を捕獲して売買や食用にする職業。毒蛇は街道の食堂などに売られ、毒のないものは自らの食料とされる。

歴史・文化背景

宋代における囚人の労役では、牢城に閉じ込められるだけでなく、城郭の外での土木作業や農業などの強制労働に従事させられることがあった。本作では、管理が緩む作業時間や場所を突いた脱獄、また逃走中に生き延びるために旅人を襲うといった、当時の過酷な世情が描かれている。

→ 次の節(第6巻 第5章 第2節)

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